
MAY 5, 2023
Special interview
豊竹咲寿太夫
豊竹咲寿太夫
×
Takahiro Sato
佐藤貴浩
# 02
Creators cross talking
Ambassador × Designer
Ambassador
×
Designer
"初めての文楽鑑賞"
佐藤:
まだまだ聞きたいんですけど、これから
僕も初めて観劇した時に、結構皆さん玄人な方が多くてドキドキしたんですけれど、
咲寿さんが初めての方にこういうポイントを観てもらいたいとか、
こういう用意とか、こういう知識があると楽しいよっていう
アドバイスをしてもらえますか?
咲寿:
そうですね。
文楽という芸能は物語を楽しんで頂ける芸能だと思うんです。
それで先程観て頂いたように観てる内に段々人間が消えていくんですよね。
佐藤:
そうなんです。不思議でした。
咲寿:
最終的に物語の主人公である人形が生きている様な
感覚で観られるっていう所が文楽の1番良い所だと思って
やっぱり物語を純粋に楽しんで頂けると思いますので
初めて観て頂く方にはご覧になる演目のあらすじを最初にパンフレットとかインターネットで調べて頂いてもいいですし。
佐藤:
たまに載せて下さってますよね。
咲寿:
そういうのであらすじを知ってから見ると
どうしても言葉自体は
江戸時代から明治の時代の言葉とか使ってたりするものが多いので、
新作は勿論現代の言葉を使ってたりもしますけど
やっぱり古典としてやっているものは、ちょっと古い言葉を使っていますのでなかなか最初とっつきにくいと思うと、ちょっと辛い所があるかなと思うので
あらすじを知ってから観て頂くとすっと物語に浸って頂けるんじゃないかなと思います。
佐藤:
ちょっとあらすじくらいは調べていくと。
逆に言うと、咲寿さんが個人的に好きな演目を演じてでもいいですし、勿論観る側でもいいんですけど、何か1つ2つ。
咲寿:
文楽の物語の中にはジャンルが大きく分けて2つありまして、武士の物語と町人の物語。
この武士の物語を時代物と言いまして、
町人の物語は世話物と言うんですけれども、
そこから1つずつ。
佐藤:
是非是非。

咲寿:
武士の物語の中で私が好きなのは「義経千本桜」という演目がありまして…。
佐藤:
ああ、この間迷ったんですよ。
咲寿:
これは源義経が、頼朝に追われて奥州へと逃げて行く途中の物語です。
この義経千本桜があるんですけれども、義経が表立って活躍すると言うよりは、
義経を取り巻く人たちがどういう風に義経の元で生きていたかという、
そういうドラマ性のある物語です。
且つ、ちょっとファンタジックな要素も入っていたりするんですけれども
1番メインとなる物語で、義経千本桜の中に「河連法眼館の段」という所があるんですが、
佐藤:
段って言いますよね。
咲寿:
はい、何々の段という風に言います。
この演目はとても有名で文楽でも歌舞伎でもよく演ります。
これは義経の妾に静御前という人が
もしかすると教科書とかに出てくるかもしれませんが
その静御前という人が京都から奥州の方へ逃げている途中の義経を追って吉野の山に隠れている義経の所に行くんですね。
その道中、吉野の山の中を
千本桜、あそこは千本桜が有名ですから
吉野の山の桜が咲いている所を旅している途中で
義経の家来に佐藤忠信という人がいらっしゃって、この忠信と2人、道行をするんです。
が、忠信と思ってついてきている人が実は忠信ではなかった。
という所が…

佐藤:
おおー。サスペンス要素がありつつ…。
咲寿:
これがちょっとファンタジックな要素が入りまして、
この忠信が実は狐だったというお話なんですが、
この静御前が義経から鼓を1つ預かってまして
この鼓は天皇家由来の鼓なんですね。
この鼓を打てば
その昔、雨乞いの鼓として作られた物で
佐藤:
神事の道具みたいな。
咲寿:
そうです。
その鼓の皮に狐の皮が使われていまして、その狐の皮の子供の狐が自分の親の狐の皮の音が恋しくて一緒について来たというお話で。
佐藤:
凄い、ほろっときますね。
咲寿:
その狐の親子の情愛を描いた物語。
これが河連法眼館の段という場面になりまして、
これに対比されるように裏のテーマとして、
義経と頼朝の関係性が浮き上がってくる様な関係になっていて
義経がその場面を見て、「狐でもこんな風に情愛を持つんだな」
佐藤:
兄弟でも争っているという話とシンクロしていく訳ですね。
咲寿:
そういうテーマの物語ですね。
佐藤:
面白そうですね。観とけば良かった。
悩んだんですよ。
咲寿:
これはよく演ります。いつでも。

佐藤:
もう1つは、世話話?
咲寿:
この物語、世話物って言う町人のテーマの物語
佐藤:
世話物ですね。
咲寿:
1番、最初期の物語ではあるんですけれども
近松門左衛門という人が
佐藤:
名前はよく聞きますよね。
咲寿:
近松門左衛門はよく聞く名前だと思います。
この人がこの人形浄瑠璃、文楽で初めて書いた世話物それが「曽根崎心中」という演目です。
曽根崎という所で心中する男女の物語なんですが、
男の人は醤油屋の手代(てだい)なんです。
丁稚(でっち)上がりの手代。
恋仲である女の人は遊女なんですね。
遊女という人はそういう、
手代の様な、俗に言うとあまりお金を持っていない人、
下働きの人なんでそういう人たちと深い仲になることは殆どないんですけれど、
この曽根崎心中は実話なんです。
佐藤:
なるほど。
咲寿:
その醤油屋の手代の徳兵衛と
遊女のお初が恋仲になるんですけれども
色んな、お金で騙されたりして
大阪に居づらくなって2人で心中するという
そういうちょっと切ない話ではあるんですが、
かなり純粋なラブストーリーに仕上がってまして
ストーリーもシンプルで
他のストーリーになると
結構「実は何々だった」とかそういう事も色々あるんですけど
全くそういう要素がなくて
初めて見て頂く方には凄く観易い演目だと思います。
佐藤:
演出とか感情表現とか。
咲寿:
そうですね。


佐藤:
最初に観たのがもう少し…変わった物語だったので。
でも凄く面白かったです。
僕が観て1番凄いなと思ったのは
桂川連理の柵は登場人物がとても多いんですけど
太夫さんが声色で全員演じ分けるんですよ。
僕はその頃、後半はもう夢中になっているので全然気にならないでやっている。
あとは人形遣いさんの所作の美しさ。
咲寿:
はい。
佐藤:
わざわざそこ袂をこうしてやる事ないと思うんですけど
でもそれが性格がちゃんと出ていて
咲寿:
そうですね。
佐藤:
太夫の語りと人形遣いの表現と
あとは三味線。
凄く一体になっている感覚。
咲寿:
そうなんです。三位一体という風に言われるんです。
佐藤:
三位一体ってまさに思いました。
でも初めて観たので残り10分位でそれになったんです。
でも初めて観たので残り10分位でそれになったんです。
「ああ〜」ってなっていて。
次は多分開始5分くらいでそこに行けると思います。
咲寿:
ありがとうございます。

— Everything has been passed down from generation to generation through repeated changes.
豊竹咲寿太夫
[Greeting]
着物とは「着る物」。実にシンプル。
時代の流れで着る物のスタイルが変化するのは必然。
かつての生活に寄り添った機能美に裏付けられた着物の様式美を、自分達が生きる現代の生活へ昇華した機能美には普遍と革新が同時に存在している。
古いものにも新しいものにも不可逆的な時間の流れの中に境目はなく、全ては変化を繰り返して脈々と継がれてきたものだ。
それが口伝。
ようこそ、さあ、ご一緒に。
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