Artisan Insight #1 Fisherman in ltaly

Artisan Insight #1  Fisherman in ltaly - KUDEN by TAKAHIRO SATO

Artisan Insightは世界中の”職人”の声を通し、世界中の伝統や”今”の取り組みについて知る連載です。KUDENが考える”職人=Artisan”とは、農家、漁師、クラフトマン…自分の信念を持って何かを造り上げるクリエイター。過去の伝統や技術を受け継いだり、習得したり、それを自分流や現代の生活に合わせてアップデートしている人をArtisanと呼んでいます。

Oct 3, 2019
Irene Altopiedi
Designer / PR / Writer

イタリア、ナポリから電車で1時間ほどいくとモッツァレラチーズで知られる町モンドラゴーネに辿り着く。
連載第1回目である今回は、KUDENのスタッフであるイレーネがモンドラゴーネの漁師にインタビューを行いました。




Artisan Insight #1


語り手:ジョヴァンニ・スピノサ
インタビュアー/ライター:イレーネ・アルトピエディ




ジョヴァンニ・スピノサさんはイタリアのモンドラゴーネで約80年間漁師をしています。彼が、世界で最も古い仕事の1つである漁師についての伝統や変化を教えてくれました。



1, 漁師は現在どのような生活をしているのですか?

私たちは1日の大半の時間を海で過ごしていて、休みや食事をするためだけに家に帰ります。午後2時くらいに魚網を仕掛け、明け方に回収しに行きます。そしてその後、魚屋で販売をします。 現在は過去に比べ、何をするにも簡単です。昔、漁師には一定の日常というものはありませんでした。全て天気次第なので、漁師には”開始時間”や”終了時間”というものもありませんでした。 当時は天気を知らせてくれるテレビやコンピューター、その他のマスメディアがありませんでした。吹く風によって、安全な出発時間を決めました。その方法は安全ではありませんでしたが、それしか選択肢がありませんでした。私は少なくとも100回は生命のリスクを負いました。 自然は、あなたも知っているように、予測不可能です。今は天候が良く、風の方向が変わればその後には嵐がやってきます。残念ながら、既に海に出ている時は簡単には戻れないので、私たちができる唯一の手段は生き残るために戦うことです。漁師の生活はハードで、多くの犠牲を求められます。それでも私は幸せです、何故なら漁師は私にとって世界で1番素敵な仕事だからです。


Ph: F.F. G.Marrone


2, 何故漁師になることを選んだのですか?

選んだのではありません。漁師になったのではなく、漁師として生まれたのです。モンドラゴーネは、常に農業よりも漁業を基盤とした都市です。人口15万人の中で少なくとも500世帯は海での生活を選んでいます。あなたの父が漁師であればあなたも、そしてあなたの子供も漁師になるのです。私は学校には通いませんでした。 まず、当時学校に通う事は一部の人にのみ与えられた特権だったので、私は6歳のから父と働き始めました。我が家は大家族で、5人の男の子と3人の女の子、合わせて8人の子供がいて、更に祖母が夫を亡くした後我が家に引っ越してきました。とても貧しかったのでパンすらも買えませんでした。心地の良いベッドなんてなかったので、麻袋に穀物の葉を詰めて使いました。 トイレすらありませんでした。代わりにベッドの下に置いた花瓶を使いました。本当に、何も持っていませんでした。1日の終わりに船のメンバー全員でお金を分けるので、私と兄弟はよく父と働きに行ったものです。私と兄弟は船の中で1番若かったので給料も安かった。それでも、父が家に余分にお金を持ち帰る事ができたので、私たちにはそれで十分でした。貧乏でしたから、小銭も大切でした。それでも、私たちは自分たちより貧しい人に売らなかった魚を分け、その人たちと果物や卵、ワインやパンと交換して暮らしていたのです。



3, 漁師はどんな物を食べて暮らしているのですか?

魚はよく食べましたが、毎日というわけではありません。現在のように選択肢が豊富にあった訳ではないので、空腹を満たす為にあるものは何でも食べました。食べられる物なら何でも良かったのです。スライスされた1枚のパンを11人で分けました。そのパンは、テーブルの反対側に座っている弟がパン越しに見えるくらい薄かったです。成長の手助けになるよう、ブランも食べていました。母は料理をする時、油の代わりに豚の脂身を使いましたが、それは畜産農業者の家族に貰ったものです。当時の私たちの食事はとてもシンプルでしたが、現在は多様な食事をするようになりました。他のタンパク質を食べることもありますが、主食は未だに魚です。



4, 漁師は古くから存在する職業で、様々な伝統がありますね。その中でも最も意義深い伝統について教えてください。

漁師は信仰深い人々なので、最も重要な伝統はカトリックの信仰に関係しています。最も意義深いと思う伝統は、モンドラゴーネの守護聖人に捧げるマドンナ・インカルダナの祭りです。イースターの2日後に祝われるイベントで、漁師はマドンナの守護に感謝を示す機会を頂くのです。イベント当日、魚の売り上げを個人の利益としないのは、漁師からの信仰心や感謝を表現する為です。釣った魚は全て競売にかけられ、その売り上げでパーティーを催します。音楽、色鮮やかな照明、地物のワインや食べ物がその特別なイベントのバックグラウンドとなります。

競売の時の様子


5,昔の伝統は現在も続いていますか?

Yはい、勿論。以前と比べてそう多くの漁師がいるわけではありませんが、少なくはなっても現在の漁師たちは昔始まった事を続けています。こういった伝統は、私たちにとって非常に大切なものなので、父から子供へと永遠に語り継がれていきます。



6, 過去と比べ、現在の海の環境はどう変化しましたか?また、自然環境を守るために気をつけていることは何ですか?

今日の海は、漁師ではなくグローバリゼーションの影響で、過去に比べ汚染されています。正直に言えば、環境にどんな損害を与えるか知らなかったので、海を守るために十分な配慮をしていたとは言えません。 私が自分の間違いに気づき始めたのは、ナポリで1番裕福で有名なお医者さんに会った後からです。3隻の船で彼が世界中を旅していたことを覚えています。ナポリで荷物を積み込み、ロシア、アメリカ、日本で商品を下ろしました。彼は私を尊敬してくれていて、とても良い関係を築いています。ですから彼は、プライベートヨットのパーティーに私を招待してくれました。 そのヨットはとても大きかった!船室が14部屋、台所には3人のコックがいて、教養の高いゲストたちが大勢いました。政治家やナポリでも最高の病院の医者たちです。船にはリサイクル用のゴミ箱があり、皆ゴミを捨てる場所に注意を払っていました。もし私が敢えて海にボトルを投げ込んだとしたら、私は船の人々にとって最悪の敵として見なされたでしょう。その人々のおかで、特に親友の医者の彼のおかげで、私は環境へのリスペクトを理解し始めたのです。

Ph: F.F. G.Marrone


7,現在の漁師と過去の漁師では何が変わりましたか?

現在と違い、私が若い頃は漁師同士がより親密でした。私たちの中には互いへの尊敬があり、共同体として、そして兄弟愛のような意識がありました。私たちは皆家族のような関係でした。魚を販売した後は、一緒に食事をしたり、砂浜で最後の船を待ちながら寝てしまったものです。 全員が安全であることを確認するまでは、誰も家に帰りませんでした。それに、昨日よりも少し稼ぎがいい日があれば、その分他のアンラッキーだった人を助けました。当時はそんなやり方があったのです。現在は違います。人々は妬み、利己的で、誰もが他人よりもより良くなろうと求めています。人々に共有の意識は無くなり、自分の所有しているものに満足できず、さらに欲しいと求め、自分たちのことのみを考えるようになりました。その原因は、今日ほ私たちが恩恵を受けている”多すぎる富”です。確かに、私たちの生活は良くなりました。しかし同時に、人間の魂を害してしまったのです。

Ph: F.F. G.Marrone

80年間1つの仕事をし続けた職人の言葉、皆さんの心にはどう響きましたか?ご感想やライターのイレーネに関するお問い合わせはコンタクトよりお寄せください。

次回のArtisan Insightも是非お楽しみに!

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