

「ぷはーーーーーっ。緊張したぜぇ」
「オイ、原田。団長の前だぞ。慎め」
「いいじゃねぇか、アーサー。
地球に住めなくなって金星に最初に降り立った勇気ある英雄さまの御子孫様だぜぇ!
そんなめちゃくちゃ大物の中に、俺みたいなテキトーな男が会議に出るなんて柄じゃねーんだ、
ちょっと位、気が緩んだってうちの団長さんは気にしないって」
「原田」
近藤は鋭い眼光で睨む。
「ハイっ!!」
投げ出した足を戻し、椅子に思わず正座する原田。
「がっははっは!」
そんな原田を見て、豪快に笑う近藤。
「確かにお前には向いてないな」
原田を笑い飛ばしたかと思うと、すうっと鋭い顔つきに戻り、
「おい! ジン。始めろ」
「はい。近藤さん」
「一番隊から十番隊の隊長と副隊長。各隊13区の担当班長にも全員集まって貰いたかったが、緊急時のため、ベル国の首都のサクラ区と近隣の区の班長に集まってもらった」
侍団の本部の広間に黒い羽織袴姿の隊士たちが集まっていた。
中央には大きな円卓があり、団長の近藤を中心に一番隊から十番隊の隊長がならび、副隊長並びに13区のうち近隣区の班長が奥に控えた席に着いていた。
この国の名は金星のベル国。
かつて地球に人類が栄えし頃、まだ金星が人類の住まうに相応しくない環境であった時に、人々が神話の神様の名前から地名をつけていた。
この一帯は豊穣の神ベル(バアル)の名前がついていたことに由来する。 金星を構成する他の議長国の名前も元の地名に由来している。
地球が住めなくなり、人類が大規模なテラフォーミングを行い、金星がかろうじて住めるようになったころ、最初に降り立ち、基地をつくり、都市を造った勇気ある開拓者達の子孫が今の国々の代表を代々勤めていた。
ベル国の初代代表は日系であったため、この国の文化や風土などは旧地球の日本の文化を色濃く残すこととなった。
侍団は最初に移り住んだ開拓者のうち、自警の為に刀を振るい、過酷な環境の中で、仲間達を守った自警団を母体として発展し今の組織となっていた。
「緊急事態だ。宇宙エレベーターの動力中枢の管理センターに何者かが侵入。警備の仲間を20人も惨殺しやがった。また、研究所から2名の研究員が行方不明。おまけにサクラ区を始め、近隣区で侍団の隊士を狙った殺人事件が多発している。あまつさえ国の重要指定兵器である鋼の刀が何者かによって盗まれていたという報告が本日上がってきた」
侍団の副団長を務めるジンは、仲間の犠牲に対し怒りを隠そうとしなかった。
宇宙エレベーター警備の担当はベル国の治安をまもる見廻り隊である十番隊の役割であった。
十番隊隊長の原田は先程までのにやけていた顔が、打って変わって真顔になり、スクリーンに映した監視カメラや宇宙エレベーターの施設図などを元に事件を報告していく。
犠牲になった隊士の現場映像は、思わず目を覆いたくなるような凄まじいものであった。
四肢はもちろん身体の至る所を鋭利な刃物で切り刻まれており、その切断面は見事というほど、美しく、大量の血の海の中に、まるでオブジェの様に並べられ、既に息絶えた隊士の表情は苦悶というより、あっけにとられた表情で、それは自分が斬られたことを自覚する間もなく息絶えたかの様であった。
「………」
一同、その異様な光景に押し黙る。 侍団の隊長クラスならそれは凄まじい剣技をもつ者の仕業である事は容易に想像できた。
「以上、現場からの報告になります。十番隊サクラ区班20名の隊士とその家族には、心より哀悼の意と国からの補償を伝え、必ず犯人を引き摺り出し、あいつらの無念を晴らす事を遺族に約束しました」
「………トミーはもう直ぐ子どもが産まれると、まだ男の子か女の子か分からないのに服を選んでました。吉岡はもう直ぐ定年で、引退したら奥さんとカフェを開く計画を立ててました。ずっと命をかけた現場で働く自分を支えた奥さんの夢を叶えたいんだとテレながら話してくれました。サワタリは配属されて1年目。まだ21歳です。彼女を紹介して欲しいと良く馬鹿話をしました。レミーはよくみんなにお菓子を差し入れしてくれました。ダイエットしろよと余計な一言を言って3日間口をきいてくれませんでした。レナードは修行熱心で、良く道場で手合わせしました。センスは良くなかったが一所懸命なやつで、いつか隊長になる!と言ってました。周は料理が得意で、警備で宿直当番のときにはみんなに夜食を振る舞ってくれて、こんど合ったときに、あのめちゃくちゃ美味いチャーハンのコツを俺に教えると言ったまま……………………っつう、ううっ。ちくしょう、畜生!!誰がこんなこと、ぜってぇ許さん!ああっっ!」
「原田…」
「わかってる、ジンさん。わかってる…」
「キャロライン、イワン、ミハイル、タツノリ、アニク、ヤスミン、ズン、ヒューゴ、多田、ファイ、タカハシ、アルミン、ジョーイチロー、ホァン…彼ら20名の無念を晴らすため、みんな協力して欲しい」
原田は集まった隊士たちを見回し、頭を深く下げた。
集まった隊士達は誰も言葉を発しない。
しかし、皆の表情は仲間の無念を晴らすべく決意に満ちていた。
「もう一つ。宇宙エレベーターのテロに紛れて、研究所から鋼の刀が盗まれている事が判明した。この2つの事件は関連している可能性もある」
原田はそう続けると、無精ヒゲを撫でるリーに目線を送る。
長身のリーが席をたち、話ながらスクリーンに歩み寄る。
「捜査隊である四番隊隊長リー・マツバラだ。現状をもう一度整理しよう。現在侍団が取り組む重要な事件は3つ。
『宇宙エレベーターのテロと研究員2名の失踪事件』
『国家機密である鋼の刀の盗難事件』
『サクラ区で起きてる侍団隊士を狙った連続惨殺事件』。
宇宙エレベーターのテロに関しては、他国や宇宙との国防問題が絡むため、防衛団と侍団で合同対策本部として正式に『合同特別捜査本部』を立ち上げる。
侍団からは捜査隊である四番隊と治安警備の十番隊が主に合同特別捜査本部に入り捜査を進める。
鋼の刀盗難事件は、国の、いや金星の極秘事項に当たる。盗まれた事を他国に知られる訳には行かない。そのため侍団のみで特別捜索隊を結成し、極秘裏で捜査奪還にあたれと楠木代表より命が下っている。サクラ区で起きている隊士を狙った連続惨殺事件は、原田の見立てにより、今回のテロの犯人と殺害の手口が類似しているということで、関連性も含めて、今回の議題に挙げている。各自手元の端末の資料をよく読んで欲しい。また各隊の役割・配属も送ってあるので、隊長以下その辞令に従い速やかに捜査態勢を整えてくれ。捜査の進捗や対策会議の招集なども端末を通し随時アップしてくれ。不明な点あれば、四番隊副隊長のアサミ・サトウまで」
そう呼ばれた眼鏡の女性が端末を操作しながらリーの元に駆け寄る。
「四番隊副隊長のアサミです。
いつもの様に、侍団専用端末のポータルサイトに各情報をまとめています。また配属や辞令も既に発令されており、速やかに各隊長、班長は平隊士まで伝達周知徹底をよろしくお願いいたします。また今回はベル国の極秘事項が多く含まれているため、情報規制を行います。事件の重要度に合わせて、隊士の階級毎に閲覧できる情報は限定されています。この会議に参加されている隊長副隊長クラス、各隊の中での区ごとの班長までは、全ての情報を閲覧出来るように権限設定を施しており、情報の取扱には十分に気をつけてください」
そう彼女は早口で言い終えると眼鏡のズレをなおしてから、七番隊隊長の三銃郎・谷に目線を送る。
「侍団に入って日が浅かったり、昇進して間もない新参物がいるので、武装開発担当の七番隊隊長の三銃郎・谷さんに鋼の刀について説明をして戴きます」
三銃郎と呼ばれた青い髪で眼鏡の男は、他の屈強な隊士と違って頼りなく見える風貌であった。
よく見ると白衣の上に侍団の黒い羽織を羽織っている。
「あ、え、ん、七番隊隊長の三銃郎デス。主に武装開発を担当している部署です…」
少しどもる口調で、初めて三銃郎を見た新参物の隊士の中では、本当に隊長を務めているのだろうかと疑問に思う者もいた。
「皆さんが腰に差している侍団の刀。これは鋼の刀ではありません。金星や火星で産出される金属を叩いて打って鍛造した刀になります。今回盗まれた刀は、かつて地球で作られた鋼を鍛えた刀……」
そう言い終わるとさっきまでのおどおどした口調が熱を帯びたようにかわり雄弁になっていく。
「ええ、鋼の刀といっても、鋼と鉄を鍛えたもの。物質的な強度は金星火星の金属と遜色ありません。その鋼の刀がなぜ、国家機密で保管や研究しているかというと、それは不思議な力がある時期から発現したからに他なりません」
「不思議な力??」
隊長に昇格した ばかりの隊士が声を上げる。
「出るんですよ。刀に…お化けが……」
三銃郎は真顔で答える。
「お化けって、何かのオカルトかよ」
誰の発言かもお構いなしに三銃郎は話を続ける。
「なんて、非科学的な事を言っても仕方ないですが、出るものは出る。実際に現象が起きているのだから科学者としては実に興味深い。実に興味深いのです!」
すっかり三銃郎の頬は紅潮し、楽しそうに続ける。
「鋼の刀の鍛え方を地球からの文献などを研究し、再現したレプリカの刀が皆さんが腰に付けている刀です。よく切れます。ただし、それだけ。地球の鋼で鍛えた刀はそれにプラスして、不思議な力が発現する。この金星や他の火星などの人類が住む惑星圏では、鋼はレアメタル。そう地球でしかほぼ採掘出来ない。現存する鋼の刀は、ベル国の建国時に自警団を立ち上げた人物が持っていた刀と、数年前にこの国に墜落したとある富豪の宇宙船に積まれていた美術品の中にあった地球から集められた日本刀コレクションのみです」
「それがなぜか、凄まじい戦闘力をもっており、ベル国では鋼の刀を秘密裏に保管・研究に至ったという流れがあります!!」
「三銃郎さん。そこまで」
アサミが冷静な口調で割って入る。
「鋼の刀に詳しい方を今回の会議のため招聘しております」
「は、そうでした。す、すいません。貴延さん。貴延さん!よ、よろしくお願い致します」
そう呼ばれた男が奥の控え室から会議室に入ってくる。
「待たせすぎだ。早いところ用件済ませて帰らせろ。俺は息子が帰って来るまでに夕飯の準備をしなきゃならねぇんだ!」
隻眼の男が面倒くさそうにそこに立っていた。