[第二話] 車椅子の侍





  • 照りつける日差しのなか、一心不乱に刀を振る男。
    振る刀は二刀。
    その鍛えられた体はしなやかに両の手で二刀を扱っている。
    しかしその男は車椅子に乗っていた。
    この星では珍しくサイボーグ技術で補わずに、ありのままの姿で車椅子と刀を自在に操る男。 彼は自身を鍛えるために武者修行の旅の途中であった。
    彼の旅の目的の1つは噂に聞く「本物の鋼を鍛えた刀」を探すこと。
    その旅の途中で本物の刀の話を耳にする。 男は鋼の鍛え方にとても心を惹かれていた。

    「こんななまくらではなく、いつか本物の刀を手にしたいものだ」

    そんな旅の途中に立ち寄った町で刀を鍛える男の噂を耳にした。 茶屋で一休みする車椅子の男は、1枚の貼り紙を指さし、茶屋の娘に声をかける。

    「この御前試合というのは誰でも参加できるのか? 」
    「ええ、確か競技場で事前にエントリー出来るはずです。私は出たことないので詳しくは分からないですけどね」 

    ……なるほど、優勝者には鋼の刀を進呈とある。
    行ってみるか……

    「おにいちゃん! かっこいいねー」

    不意に後ろから掛けられた子どもの声で振り返る。
    そこにはイヤーマフをした少年がニコニコしながら車椅子をのぞき込んでいる。

    「こら、タケル。失礼になるだろ。すまねえな。好奇心旺盛なもんで」
    「いや。大丈夫だ。すまないが競技場はどっちの方向に行ったら良いか教えて欲しい」
    「ここから東の城塞関所の近くに競技場がある。でけーから行けばすぐに分かるさ」

    男は親子に礼を言うと、娘に支払をし競技場へ向かった。

    ※※※

    「ただいまより御前試合を開始する! 」
    「武器の使用は自由!
    ただし殺さず。勝ち残った物には本物の鋼を使った刀が姫より進呈される! 」

    円形の競技場で、大勢の人々が今か今かとその試合の開演を待ちわびている。
    歓声の中、来賓席よりよく通る澄んだ声が響く。

    「誠に強き者には侍団への入隊を認め、真の刀を授ける! 」
    「みなのもの日頃の鍛錬の成果をみせよ! 」

    凛とした表情で競技場を見回すと、役目を終えた姫は自分の席へ戻る。

    ……ああっ、私も出たかったなぁ……

    そう呟く表情は無邪気で、先ほどの大人びた表情とは違っていた。
    度重なる環境汚染や自然破壊から地球が住めなくなり人類は他の星に移住をした近未来。 移住した星々は、地球とは異なった資源や物質の構成、気候や生態系を持っていて、人類は他星の生物とともに、様々な技術で適応していた。
    しかし地球ほど豊かな自然や資源がある星ばかりではなく、人々はかつて地球の自然を破壊し住めなくしたという罪を背負うかのように厳しい環境下の中で、それでも逞しく生きていた。 

    そんな時代のとある惑星のこの国。
    日本をルーツに持つ人たちが多く住む。
    そこは厳しい自然環境から身を守るために、宇宙エレベーターを中心に城塞を作り栄えた国。 この国にはかつての地球、そして日本という国にいた、侍の魂を受け継ぐ事を誇りにする男がいた。
    この地に人類が最初に移住した時には、まだ人も少なく、開拓をしながらこの厳しい環境の中で生きていかねばならなかった。
    自然環境や争いから人々を守るべく、男は地球から受け継がれた鋼の刀を持って人々を守り勇気づけた。
    彼を慕う人々が集まり剣術や士道などが今に語り継がれた。
    その集団の名は侍団。
    この国の象徴であり、自警の為の組織でもある。

    御前試合。
    それは侍団の実力を向上させる目的と共に、隊長クラスであれば一騎当千の軍事力にも匹敵する侍の力を他国に対してアピールし、抑止力としての側面を持つ大会である。
    歓声響く場内。
    スピーカーのハウリングと共に開演の合図が響き渡る。

    「それでは第一試合を始めます! 」

    「侍団二番隊隊長! アーサー・J・永倉!! 」
    「 VS  旅の剣士 ケンタ・黒田! 前へ! 」

    競技場の中央に向けて、東と西より2人の剣士が歩み始める。
    その無名の男、ケンタの風貌に、観客席がざわめきはじめる。

    「おいおい、アイツ車椅子じゃねぇかよ。あんなんで戦えるのか? 」
    「あっちゃーっ、最初から二番隊の天才剣士の永倉かよ。ま、これはもう勝負はきまったな」 

    ケンタは鍛え上げられたしなやかな細身の身体で両の脇には2本の刀が差してあり、眼光は鋭く、年の頃は 二十代前半の風貌。
    ただし、その姿は車椅子に乗った出で立ちであった。

    一方、観客から天才剣士と呼ばれたその男、永倉は、一見優男風の顔つきだが、その身体には密度の高い筋肉が鍛え上げられていた。
    眼光が鋭いというよりも、あまり表情が前に出ない。
    物静かな雰囲気を纏っていた。

    中央に辿り着いた2人はお互いを静かに見つめる。
    客席にいたただならぬ雰囲気をもつ2人の女性。

    「セレナ、どう分析する? 」

    三番隊隊長のアンジー・齊藤が腹心の副隊長セレナに問いかける。

    「隊長、普通に考えれば永倉が有利ですが、彼の練り上げられた気迫からただ者ではないとすぐわかります。これは見物ですね」

    セレナは手に持った端末を見直しながら、分析をはじめている。
    それを横目に、中央の2人を眺めながら、嬉しそうにアンジーは言う。

    「まぁ、これに勝った方が次アタシと当たる訳だから、どっちにしろ楽しみだけどね」

    セレナはそんなアンジーには気にもせず、いつものことねと分析に没頭して行った。

    ケンタは永倉の目を睨みながら、旅に出た理由を思い出していた。
    ……俺は本物の鋼の刀を手に入れる。刀は繰り返しの鍛錬によって不純物を取り除く。純粋な鋼になるまで。
    叩き、伸ばし、鍛え、折れず曲がらず切れ味鋭い鋼の刀。
    そんな刀のような生き方を俺は歩む……

    永倉はケンタと対峙し、その力量をみるや高揚する自分を抑えることが出来無かった。

    「あの節穴共。こいつが手加減して勝てる相手かよ。悪いが、はじめから全開でやらせてもらう」 

    そう言って鞘から抜刀し、低く下段に構える永倉。
ケンタも永倉のただならぬ気迫に負けぬよう、睨みつける。

    「望むところ」

    ケンタは両の手で抜刀し、一刀は天へ、もう一刀は相手に向けて切っ先を合わせた。
    ……今までだってどんな大舞台でも、どんな困難でもそのプレッシャーをこの身に抱え挑戦してきた。
    俺は知りたい。
    この身一つでどこまで強くなれるかを……
     
     2人の緊張が最大限高まっていくその最中、開始の合図が響き渡る。

    「はじめ!!!! 」 

    その合図の声が終わるや否や、2人は観客の目では追えぬほどの瞬足で前に出る。

    上段より天から振りかざすケンタ、下段から振り上げケンタの刀に刷り上げる永倉。
    ガ、ガキィーーン
    激しく火花散る刀と刀。
    その火花の刹那、余りに速く音速を超えたその斬撃が遅れて衝撃波となって会場の中心から発生する。

    会場は静まりかえる。
    2人は互いに後ろに飛び、体勢を整える。

    「やるな」
    「お前もな」

    ウワーーーーーーーーウワーーーーー
    2人の戦いに水を刺すような甲高い警報音が会場に、いや町中に鳴り響く。

    「そこまで! 」
    「緊急事態の警報。直ちに大会を中止し、侍団は持ち場に戻れ。各隊の隊長副隊長は対策本部へ! 至急! 会場の観客は誘導に従い速やかに避難して下さい! 」

    「チッ。邪魔が入ったな。この続きはまた」
    そう言って刀を収める永倉。
    慌てふためく観客の騒乱をよそに、観客席から飛び出す黒い人影が2つ。

    「アーサー! 行くよ! この警報音は宇宙エレベーターの緊急警報だ! また遅れたらどやされるわよ! 」
    「アンジー隊長! 早く行きますよ! 」
    「わかったよセレナ〜」

    アンジーはケンタの耳元で
    「良かったらアンタ、侍団に来なよ。歓迎するわ! 」

    ……いつの間に……

    ケンタは気配を感じず、近寄ってきたアンジーに驚きを見せる。
    刀を鞘に収めるケンタ。 
    まだまだ、この世界には強いやつがいやがる。

    警報鳴り響く騒乱の中、更なる高みに向けて鍛錬をする事を誓うのであった。

    「ミサ姫様! お急ぎ下さい! 」
    「ちょっと待って、私だけ先に逃げる訳にはいかないわ! 」
    「この会場が狙われているのでは無いのです。この緊急事態警報は宇宙エレベーター関連の警報です。狙われているのはこの町、この国です! 」
    事態を察したミサは唇を噛みながら
    「わかったわ、源じい。戻りましょう」

    ミサは振り返り、警報瞬く空に高くそびえ立つ宇宙エレベーターを睨んだ。






  • また遅れたらどやされるわよ!ってことは二人して遅刻常習犯なの…?というらくがき


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