[第三話] 星





  • 「遅いぞ!」
    重苦しい空気をかき消す様に、厳しい声が余り大きくない室内に響く。
    眼光鋭い細身の筋肉質な男が、途中で入室してきた2人の隊長にそう声をかけると、着席を目で促す。

     「悪いねぇージンさん。闘技場から急いできたんだけどさー」
    アンジーが悪びれも無く、陽気に答える。
     「試合中だったしね、アーサー?」
    アーサーはその問いに答えず、黙って席に着く。
    慌てて着席するアンジー。

     「侍団。全員揃いました」
    会議の議長をつとめているジンと呼ばれた男がメンバーの名前を呼び上げる。

     「金星のベル国代表のタカノリ・楠木氏。副代表のミキヤス・後藤氏」

    そう紹介されると奥に座る短髪の壮年男性が頷き、隣の副代表とよばれた男と目線を通わせる。2人の表情は、緊迫しながらも、事態を冷静に捉えているように見えた。
    続けて、ジン・ 土方は対面する席の人々に敬うように軽く会釈をし、紹介を再開する。
     「こちらは防衛団 団長 エドワード・リュウ氏。防衛団の陸軍を司る1番隊隊長 グレッグ・ニシヤマ氏。空軍を司る3番隊隊長 ヨシト・ミュラー氏」

    黒い軍服に身を包み、金髪の髪を後ろに束ねたそのエドワード・リュウと呼ばれた老人は、大きな体で眼光鋭く、座ったまま静かに頷いた。
    エドワード団長の右に座した2人の男が席を立ち、敬礼をする。
    グレッグと呼ばれた男は落ちついた物腰で、短い髪と鍛え上げられた厚い胸板、躍動的なしなやかな筋肉が軍服の上からも見て取れた。
    ミュラーと呼ばれた男は隊をまとめるにはまだ若く見え、赤毛の癖毛が印象的であった。

     ジン・土方が2人の着座を確認すると話を続けた。
     「そして侍団 団長の近藤宗厳。特別武装隊の一番隊隊長 ソウジ・C ・沖田。同じく特別武装隊 二番隊隊長 アーサー・J ・永倉。同じく三番隊隊長 アンジェラ・齊藤」
     「捜査隊の四番隊隊長 リー・マツバラ。見廻り隊 十番隊隊長 有人・原田。議長を務めさせていただく侍団 副団長のジン・土方です。また、状況把握に本部と宇宙エレベーター職員4名を参加させています」

     近藤宗厳。
     白髪で長髪。顎に蓄えた白髪の髭が印象的であるその老人は、さほど大柄ではないが、その凛とした佇まいと引き締まった体で、触れれば切れる…そんな印象を誰もが持つほど、年齢を感じさせない生気を身体中に発していた。

     ソウジと呼ばれた男は、まだ幼さが残る顔立ちで、退屈で早く終わらないかな…という素振りを少しも隠そうとはせず、左に差した刀の柄の紐をいじっていた。

     リー・マツバラ。
     黒髪の短髪で、無精髭を生やしているが不思議と清潔感があり、彫りの深い顔にギョロッとした鋭い眼光で、その場の誰よりも長身であった。

     コンクリートとガラス張りの近代的な本部施設の中でも、奥まった場所にあるその会議室の一室に16名が重苦しい雰囲気の中、金星でも海に囲まれ、比較的水にめぐまれたベルという国に起きた初めての宇宙エレベーターへの直接テロについて、対策会議が開かれようとしていた。
     
    「宇宙エレベーターのテロに関しての報告と対策会議を開きます」

     ジン・土方はそう言うと、会議室のプロジェクターを映し、テロの現状についての説明をはじめた。

     「今回の事件は、宇宙エレベーター施設内に何者かが侵入。実質的な被害は無く、宇宙エレベーターの運行や設備に問題は無し。施設職員の警備にあたる侍団20名が何者かに殺害。施設の研究員2名が行方不明。施設職員が怪しい物音や人影を確認しているも、犯行する人物の補足および目的は今のところ不明です」

     ジン・土方は、十番隊隊長の原田に視線を投げ、発言を促す。
     「町や施設など警護する見廻り隊の役目を司る、侍団十番隊隊長の原田です。殺害された我が隊の侍団の20名はバラバラに惨殺されており、主に動力室への警備にあたる者達です。行方不明の職員はエネルギー部門の研究員1名で、もう1人はサイバネティクス部門の研究員です。現在、現場検証が終わり捜査担当の四番隊リー隊長と連携をしながら、行方不明者の捜索と犯人の手がかりを捜査中です」

     原田が話し終わるかどうかというタイミングでリー・マツバラも追随する。

     「現在のところ、どこからも犯行声明も無く、手がかりとしては消えた研究員2名の行方とその失踪動機に絞っています。また、宇宙エレベーター創設から施設内にまで侵入を許したことは初であり、前代未聞の事件のため、防衛団との連携を進め、事件究明と再発防止の対策を早急に進めて行かねばと考えており、防衛団と侍団合同の対策本部の設置を進言いたします」

     防衛団グレッグ隊長が大きく頷く。

     「現在、我が国の国境もしくは宇宙空域から何者かが侵攻した形跡は見当たりません。各区に配置された防衛団やレーダーにも異常は見られませんでした。よって、ベル国内の勢力によるテロの可能性と他国又は他星の勢力によるテロの可能性の両方の線が考えられます。犯行前に侵入を許している可能性があり、我が団は他国や宇宙空域からの防衛を主とした組織であるため、より国内に根ざして治安を守る侍団との合同対策本部設置に異論はありません」

     「防衛団の空軍を率いているミュラーです。我が国に入出国する政府や民間の宇宙船、飛行機に不審な機体は今のところ発見されていません。宇宙エレベーターを利用した民間人の宇宙への移動に関しても、パスポート取得の基準を厳しくしており、テロの犯人が侵入するのは困難です。ですが、侵入を許したことは事実。草の根分けても探しだし、至急に対策を練る必要があります」

     「どうだろう? エドワード。宗厳。」
     タカノリ・楠木が両団の長に同意を求める。
     「了解した」
     エドワードは頷きグレッグに目配せをする。
     「御意」
     近藤宗厳は答えたあと、ジン・土方に命じた。
     「ではジン。防衛団と連携しメンバーの選出を急げ」
     「は!」

     「ちょっと待ってくれ」
     原田が罰の悪そうに恐る恐る声を出す。

     「テロと直接関係ない国内の事件ですが、侍団の団員が何者かによって斬殺される事件が連続しています。その殺し方が今回のテロと同じ斬殺。そのやり口が類似しています。死者は刀の様な鋭利な刃物で執拗な位に身体を切り刻まれています。末端とはいえ侍団の隊士がここまでやられるのは、異常です。もしかすると今回のテロと関連があるのかも知れません」

      Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi !

     捜査隊のリーのモバイルフォンが重い空気を切り裂く。
     ジン・土方が切っておけと言わんばかりに、睨みつけるが、リーはお構いなしに電話をとる。

     「どうした?」
     「何?」
     「わかった…」

     錚々たるメンバーがリーの顔に注目をする。

     「本部武装開発局からで、研究中の鋼の刀が何者かによって盗まれていた事がわかりました」

     タカノリ・楠木、ミキヤス・後藤、エドワード、そして近藤の顔が動揺を隠せず少しこわばったのをリーは見逃さなかった。





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