[第一話] 鉄屑屋の男




  • 廃置場でリアカーのような手作りのボロ車を引く隻眼の男。
    汗を拭いながら鉄屑を見極めている。
    あてが外れたのか、ため息をついて鉄屑を放り投げる。

    その男の小さな息子が、銀色の猫と一緒に何か大切そうに抱えて元気に走ってくる。

    男はその胸に抱かれた古びた短刀を見つけると、一瞬歓喜したが、やはりすぐに後悔の念に苛まれてしまった。

    この惑星圏で有名な富豪の宇宙船が、不慮の事故で墜落し数年。

    あらかた事故処理も終わったが、所有していた美術品などの金目の物目当ての野党や荒くれ者がこの町に集まっていて、近年治安が悪化していた。


    親子は城塞の町の長屋に2人で身を寄せ合うように細々と暮らしていた。

    長屋に住む仲間達に支えられながら、慎ましくも賑やかな声が聞こえる町。

    「おう、貴の字! どうしたしょぼくれた顔して!? 」
    「タケちゃんお帰り〜」

    町の衆に声をかけられ、鉄屑を載せたリアカーを引きながら長屋に向かう帰り道。

    「父ちゃん! 」

    隻眼の男の息子がリアカーの後ろにちょこんと乗りながら、父親に得意げに短刀を鞘から抜いて見せる。

    「タケル、危ないから仕舞いな」

    つまらなそうに鞘に収めるタケル。
    タケルの手から短刀をさっと奪うと、周りを見回しながら懐に収める。

    ……やっかいな事にならなきゃ良いが……

    視線を感じ、振り返る。
    じっと見つめるタケル。

    タケルは勘がいい。
    この子は生まれ付き中度知的と自閉症であった。
    男は気を取り直し、

    「タケル、今晩は何が食べたい? 父ちゃん美味しいもん作るぞ! 」
    「手羽先〜」

    タケルは猫を抱きながら満面の笑顔で大好物を叫ぶのであった。
    親子を遠目から見る人影。
    「見られたか?? 」


    ※※※

    長屋の一室。
    息子がお腹いっぱいになり横で猫と寝息を立てている。
    息子を起こさぬよう明かりを消した部屋で短刀を見つめながら男は考え込む。
    短刀には見覚えある家紋が入っていた。

    「起きようかな! 」

    いつの間に眠ってしまったらしい。
    布団の中からタケルの元気な声で目が覚める。

    「おはようタケル」
    「朝ご飯つくるから手伝って」
    「はーい」

    「今日は父ちゃん、大事な用があるからタケルは学校の後は茶屋のイレーネとブリジッダの所で留守番してるんだぞ。父ちゃん用事が終わったら迎えに行くから」

    息子を送り出し、いつもの仕事着の中でも綺麗な服を何とか探し、身支度を調え、男は仕舞い込んでいた短刀を用心深く更に布で巻き、懐に収めた。

    悲痛にも見える表情で、町に出る男。


    ※※※

    商店が並ぶ賑やかな町。

    「タケル、父ちゃん帰ったぞ」
    「へ、貴さん。タケル来てないよ」
    「何? 」
    「てっきり、貴さんと一緒にいるから来ないのかと思って……」

    ことの事態を理解し、顔の血の気が引いていくイレーネ。

    「どうしよう。タケル?! 」

    慌てて店を飛び出し、学校のある方角へ走る貴。

    「きっと学校で待っているはず」

    そう言葉にだしてみても不安な気持ちがどんどん胸を満たしていく。

    学校に向かう道すがら、小さな広場で、ちょこんと地面に座りタケルが楽しそうに絵を描いてる。
    タケルの横には、体格の良い筋肉質の男がタケルの絵を覗きながら、自分の描いた絵と見比べている。

    「タケル!! 」
    「父ちゃん! 」
    「どこ行ってたんだ? 学校終わったらイレーネのとこで待ってろって言っただろ」
    「このおにーちゃんと絵描いてた! おにーちゃん描いたことないんだって、不思議だね〜」

    男は鍛え上げられた体には似つかわしくない程、首を傾げ、自分の絵とタケルの絵を見比べている。

    「うめーじゃねーかお前。どうやったらこんなに描けるんだ?? 」
    「もっと丁寧に描こう! 」
    「はぁ、なんだおめー」

    貴はホッとして、その男と一緒にしゃがみ込み、タケルの絵を見る。
    タケルは昔から絵が上手で、親バカながらタケルには絵を描いて静かに楽しく暮らして欲しいと願っている。

    「で、刀はどこにある? 」

    タケルには聞こえないように例の男が貴に問いかける。
    貴に緊張が走る。

    「まぁ、素直には出さねぇよなぁー」

    と言いながらタケルを片手で軽々と抱えて、後ろに飛び退く男。

    「まぁ、常套句で悪いんだが、ちょっと素直すぎじゃぁねえか? 」

    「ははっ。見つけたぞ鍛冶屋! この宇宙で唯一鋼を鍛えて刀を作れる鍛冶屋ってのは、テメェなんだってな? 今までずうっと噂ばかりで見つからねぇと思ったら、こんな寂れた鉄屑街に隠れてたのかよ。さあっ、持ってる刀を寄越せ! 」

    「何のことだか俺にはわからねぇ。息子は関係ねぇ。息子を返せ! 」

    「大事な息子を返して欲しかったら、刀をもって俺たちのアジトまで来い! 明日までだ。刀を持って一人で城塞の外の西の廃屋まで来い。来なかったら息子の命はないと思え! 」

    「じゃぁな、連れてくぜ! 」
    「まて! タケル! 」
    「父ちゃん!! 」


    ※※※


    ドン!

    「息子がさらわれてるってぇのに、そんな悠長な話をしてられるか! 」

    「いやいや、落ち着いて下さいよ。ちゃんと事情と情報を聞かないとわからないじゃないですか。刀ってなんですか? なんで狙われたんです? そもそも僕達新人だけじゃ敵わないから、今すぐは動けないですよ……」

    「もういい! 」

    この星の自警団である侍団に掛け合う貴。
    しかし今や形だけで形骸化した侍団は野党の評判を知り、尻込みをするばかり。

    痺れを切らせた貴は自ら、野党のアジトに乗り込むべく、長屋に戻るのであった。

    ガラッ

    勢いよく戸を開け、長屋の女将に叫ぶ貴。
    「女将! 預けていたアレを出してくれ! 」

    「どうしたんだい? あんたそんな怖い顔して……」
    「また刀を振るうのかい? ……あんな事があったのに……」

    その血相を変えた表情を見た長屋の女将が、何かを察し、
    「わかったよ、ちょっと待ってな」
    女将はそう言うと奥の部屋に戻り、暫くして大切そうに、袋に入った物を抱えて戻る。

    「預かってた物を返すよ」
    そう言って刀袋に入った刀身が約150cm 程の刀を手渡す女将。

    しっかりと刀を掴む貴。
    その手は幾分震えているのが分かる。

    「また、こいつを使わなきゃならん日が来るとはな……」

    ガラッ 

    「なんだい? 随分騒がしいねぇ」

    貴とその息子のタケルの面倒を見てくれている長屋近くの縫製工場のおばばたちの姿があった。
    長屋の女将と縫製職人のおばばたちは、貴の過去を唯一知っていた。
    貴の手にした刀をみて、すぐに何かを察したおばば。
    「ちょっと待ちな! 」

    すぐに女工に指示を出す。

    「直しておいた、あれ持ってきな! 」
    「はい! 」

    若い女工は小走りに縫製工場に走る。
    女工が戻り、その風呂敷を受け取ると、おばばはその風呂敷を貴の胸元にグイと押しつける。

    「あんた、これも持ってきな! あんたが昔着てた服、直しておいたからね」

    手には綺麗に畳まれた侍団の正装着の黒い羽織と袴があった。
    貴は一瞬躊躇したが、羽織に袖を通した。

    「やっぱりあんたはそれが1番似合うね」

    「行ってきな! タケ坊を頼んだよ!」

    貴は 羽織を靡かせ今まで見せたことのない顔付きで疾る。

    尻込みしてた侍団の中で1人気を吐いた原田が追走してくる。

    「おい! 貴。てめぇその長いもんは何だ。随分と大層な格好じゃねえか。おまえにそんな刀、扱えるのか? 鉄屑屋! 」

    「うるせぇ、自分で打った刀を使えない鍛冶屋がいるかよ! 無駄口叩いてる暇があったら、てめぇも力を貸せ! 」

    原田と呼ばれるその男は、笑いながら貴の後を追走する。
    城塞都市の大きな壁にある関所が見える。
    「ちっ、この急いでる時に面倒だ……」
    「任せな! 俺が居れば、簡単に通過できるさ。一応、これでも侍団の十番隊の長だからな」


    ※※※

    「見ろよ貴! あそこじゃねぇのか? 見慣れねぇ型式の小型船もある」
    「原田、おまえはここに残ってくれ」
    「何言ってやがる。おまえ1人でどうこう出来る相手ではないだろ。若手の隊員の報告では、あれは星々で悪名が響き渡ってる一味に違いねぇ」

    「いや、1人で無い事が分かれば、タケルの身が危ない」

    貴のただならぬ決意と雰囲気に少し気圧される原田。

    「分かった。俺は後ろに回る」
    「頼む」

    ※※※

    この星は196の大小の国で治められており、7機の宇宙エレベーターが管理されている。

    この星はかつて人類が住んだ地球より資源が乏しく、惑星から少ないながらも出る天然ガスや旧地球には無い未知のエネルギーを抽出して電力に変換していた。

    それだけでは安定したエネルギーを確保できないため宇宙エレベーターから他星より”エネルギーキューブ”という【エネルギーを発生させ蓄える新技術】を取引しエネルギーを賄っている。

    一般の生活レベルはほぼ電力で賄えるが、宇宙船など出力が大きいテクノロジーは電力では足りないのでエネルギーキューブを使って人々の営みを支えていた。
    そのエネルギーキューブを精製する技術は一般の市民には明かされていない。

    そのため、宇宙エレベーターを所有し、その管理を任されている国が権力を持つ状態になっていた。
    宇宙エレベーターを管理しエネルギーを独占していることに対して不満をもつ派閥も多くこの星のパワーバランスを左右する象徴でもあった。
    宇宙エレベーターを過酷な自然環境から保守したり、宇宙エレベーターを襲う集団や国から守る為にこの国は城塞を築いて発展した。

    貴が辿り着いた場所は、かつて城塞を守る砦として使われたビルがテロによって破壊され放置されていた廃墟であった。
    廃墟の中に開けた場所があり、貴はそこに進むと大きな声で名乗りを上げる。

    「タケル! 父ちゃん助けに来たぞ! 」

    「刀はここだ。出てこい! 」

    タケルをさらったあの筋肉質の男が崩れたビルの2 階の瓦礫から姿を見せる。

    「おう、よく来たな」

    「刀を見せろ」

    「タケルは無事か? どこに居る! 」
    筋肉質の男が背後に目配せすると、2人の部下と思わしき男達に連れられて、身体を縛られ、口を布で塞がれたタケルが姿を現す。

    父の姿をみつけたタケルは塞がれた口で精一杯父を呼ぶ。

    「タケル! 」
    「おっと、それ以上動くなよ」

    「その場に刀を置いて、後ろに下がれ! …ん。そういえば短刀って聞いていたが、なんだその長い刀は。おまえ、騙したな? 」

    「まて! この刀も鋼を鍛えた本物の刀だ。短刀より業物だぜ。これをくれてやる。だから早くタケルを離せ! 」

    そう言うと、黒い鞘に収まる刀を床に置き、両手をあげて後ろにゆっくり下がった。

    「まぁいい。まずは刀が本物かどうか確認してからだな」

    おい! と男が部下に刀を取りに行かせる。
    部下が両の手で差し出すその刀を掴むその刹那、触れた瞬間に悪寒が走る。

    「なんだこの刀! 」

    その男も数々の修羅場を経験し、生き残り、仲間を束ねた歴戦の雄であった。
    男の全身のありとあらゆる細胞が警告を発していた。

     ……ヤバいヤバいヤバい……なんだこの禍々しさ……

    背筋が凍るような思いを振り切るように、刀を部下から奪い、じっと見つめる。
そして、意を決して刀を鞘から抜こうと力を込める。

    「ん、抜けねぇ?! 」

    力自慢のその男は改めて、思い切り刀を抜きにかかる。

    「んんんっ。なんだ、抜けねぇ! 」
男は貴に言い放つように、叫んだ。

    「てめぇ、騙したな? 抜けないなまくらを掴ませやがって! 」

    そう叫んだ瞬間、タケルを抱えていた部下が、低いうめき声を発して倒れ込む。

    「貴、タケルは無事だ。俺が守る! 」

    原田がタケルを抱えて叫ぶ。

    「てめぇら、やりやがったな! 」

    抜けない刀を握りながら、男の表情は怒りで赤く染まる。
    そのやり取りの最中、廃墟の裏側から大勢の足音が聞こえる。
    男の仲間が騒ぎを聞きつけて向かってくる。
    原田はタケルを抱えて、貴の背に自身の背を預けて周囲に意識を向ける。
    いつもの飄々として表情が影を隠し、真剣な顔つきになる。

    「やべぇな。こりゃ。囲まれたわ。どうする? 貴? 」

    頷く貴。

    「俺はよう。刀さえ手に入れば問題なったんだけどよ。穏便に済ませたかったぜ。まぁ、ここまで部下の前でコケにされたら只では返す訳にはいかねぇよな! 」

    男の部下が十数人で貴たちを取り囲み、その手に持つ銃の銃口が一斉に向けられている。

    タケルの無事を確認し、安堵する貴。
    タケルの頭を優しく撫でる。
    貴は観念した表情を見せた後、大きく息を吐き、気合いを込めて目の前の男を睨みつけた。
    貴は目の前の男を掴むように、左の手を前に突き出し、大きな声で叫ぶ。

    「来い! 雷切丸・千鳥!! 」

    貴の声に呼応するかのように、筋肉質の男の手にあった黒い刀が、赤黒く禍々しいオーラを纏いはじめる。

    刹那、刀は男の手を離れ、貴の左の手に力強く真っ直ぐ飛んだ。
    左の手に衝撃を感じながら、半ば諦めにも似た強い決意と力で刀の鞘を握る貴。

    すうっーと息を吸い、右手で柄を握る。

    それはとても自然な動きで、刀の鞘は抜けていった。
    鞘から見える刀身から赤黒いオーラが溢れ出す。

    貴は右の手でその刀身の切っ先を天へ向けた。

    刀身から赤黒いオーラが更に吹き出し、天へ昇る。
    あたり一面の空が黒く曇り始める。

    その異様な光景をそこにいる全ての人間はただ、刮目するばかり。

    その刹那、天から激しい稲妻が刀に落ちる。
    それは、まさしく天の怒りの様にみえた。

    貴は刀身に纏った稲妻ごと、目の前に敵に向けて、無慈悲に振り下ろした。
    雷鳴とともに、向けられていた銃が一瞬で、全て真っ二つになった。

    貴は銃を斬られ、恐れおののく敵に向かい、
    「次は命を貰う」
    と感情を殺した声で凄む。

    ことの重大さに気付いた者から、震える脚を引きずりながら逃げ惑う。

    1人気を吐く筋肉質の男。

    「おまえら引け! 」

    そして貴を睨みつけ、なぜか嬉しそうに笑う男。

    「どうやら、只の刀って訳では無いんだろうな……俺の知らねぇ秘密がどうやらありそうだ。チっ。あいつら俺に隠しやがって……」

    「まぁ、ここは一旦お預けだ!
    俺の名は壱伍。しがねぇ盗賊団の頭だ。鍛冶屋! また会おうぜ! 」

    「そこのチビ、こんどまた絵を教えろよ! 」

    「じゃあな! 」

    盗賊団の気配が消えて、貴は鞘に刀を収めた。
    その刀には先ほどの禍々しいオーラは消えていた。

    「おい、貴。その刀は何だ? おまえ、一体何者なんだ? 」

    原田の問いかけには答えず、タケルを抱きしめる貴であった。







  • ここすき


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